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ヨセミテと火事について



私たちがヨセミテにいる間、数カ所でかなり大規模な森林火災が発生していて、風向きによるのでしょう、ふと煙のにおいがしたり、ヨセミテ渓谷では午前中には煙が谷全体を覆っていました(午後になると気温があがって風に吹き飛ばされるからでしょうクリアーになって行きました)。
又、消防車が走る音やヘリコプターの音も聞こえてきました。
国立公園の中で火事が起こったらどのように対処するのでしょう。伝統的には、とにかく火事が起こったら消防隊を出動させて、とにかく消火活動を行い被害を最小限に押さえ込むというものでした。
ところが、長年(100年くらいのようです)このような努力を続けた結果、森が不健康になったというのです。アメリカ西海岸とりわけカリフォルニアなどでは、日本の森と違い夏場の乾燥が激しく、林床に落ちた枝や葉はなかなか腐らずただただ堆積してゆきます。このような乾燥した堆積物の上に種が落ちても土壌までの距離がありすぎて、発芽し根を土壌まで届かせることができなくなります。と入りわけジャイアントセコイアは火災に強く、火災がある程度の間隔で起こることで守られてきたのです。
火災が発生すると、林床が焼き払われ、小さな木は焼けてしまいます。ところが巨大なジャイアントセコイアは難燃性の厚い樹皮に守られていて、火災に耐えられます。それでも強い火事の時には幹まで焼けてしまう事があるようですが、それに耐えきったジャイアントセコイアは焼けた部分を覆うように成長します。たいていのジャイアントセコイアが火事にあった大小の傷跡を持っているようです。そして、この火事で樹頂近くについたコーン(松ぼっくり)が開き種をまくことになります。その時、林床は火事によって焼き払われ、種が発芽し土壌に根を下ろす条件ができあがっていると言うわけです。火事がないとジャイアントセコイアは子孫を残すことも、ライバルを淘汰することもできないのです。ジャイアントセコイアだけでなく、他の樹種にとっても、火事の無い環境は不健康な状態をもたらすと言うわけです。これは、単に木など植物にとってと言うだけでなく、そこに住む野生動物にとっても、数年から数十年すると火災が起こるありのままの自然からすると生態系を壊されていることになると言うのです。
このような生態学者の研究の結果、落雷などの自然発火による森林火災は原則として消火活動をしないという事になります。広大なアメリカだからこそ採用できる政策といえるかも知れませんが、生態学者の意見が現実にこのような形で政策に採り入れられる、アメリカの懐の深さを感じさせられます。
ところが1988年7月イエローストーン国立公園で自然発火による火災が起こります。計画にしたがって消火活動をしませんでした。ところが、それまで約100年にわたって消火活動を行った結果、林床には100年分の堆積物が蓄積していた事になります。しかも平年なら20%はある湿度がこの年は8%だったこともあり、火事の勢いはとどまることを知らず、人家にも迫ります。やむを得ず消火活動に入りますが、折からの天候の条件もあり火事を押さえ込むことができません。ついに、イエローストーン国立公園の膨大な部分を焼き尽くして、10月になって雨がふることで鎮火します。
1990年のヨセミテでも大火災が発生しています。私は、1992年に初めてヨセミテに行ったのですが、この時の火事の後が延々と続いているのを見てあきれかえり、消さないと言うことを本当に実行してしてしまうアメリカの環境保護政策に感心してしまいました。
ところが、このような大火災という現実を前に、自然火災を放置することによって生態系を守るという方針は、軌道修正がされたようです。100年にわたる蓄積と言う現実の前に、自然発火を放置すれば、本来は火災に強い木々も焼かれてしまいあまりにも影響が大きすぎるとの判断が出てきたのです。
そこで考えられたのが、人為的に小規模の火災を起こすと言うものです。9年前にこのことを聞いた同行者の中では、賛否を巡ってかなり論議になりました。
そもそも、火事を消さないと言うことが納得できない人、自然発火はともかく人工的に火事を起こしたのでは原生自然とは言えないなどの意見です。この時同行者の中で出た日本の事例は、鹿児島の桜島で溶岩流の中に松が自生してきて、せっかくの荒々しい情景を損なって来つつあるので、火を入れて現状を維持しようとの案があり、これは自然の遷移を人為的に止めるものであるとの判断で反対運動があること。また、鳥取砂丘周辺で防風林によって砂の動きが止まり、砂丘がやせて観光資源としての価値を減らしている中で、防風林の取り除きの計画についてなどでした。あれから9年、それぞれの地ではどうなっているのでしょうか。
ヨセミテでは、人為的な火災についての論議が十分にされていて、共通認識化がかなり進んでいると感じられました。インストラクターの二人の説明は、かなり自信に満ちていました。旅行中にヨセミテ内で起こっていた数カ所の火災はいずれも自然発火によるものであったわけですが、かなり大きなものでした。人家への類焼の可能性が生じ、ヨセミテインスティチュートのスタッフの中にも、自宅に避難勧告が出ている人もおられました。1990年の火災では、その大きさのためにヨセミテ全体が立ち入り禁止とせざるを得ない事態になったと言うことですから、放置すれば良いだろうとというのも現実問題として難しいのかも知れません。
人為的な火災を計画的(事前に多すぎる堆積物を除去したり、現地の地形や風向きをシミュレーションして大ききな火災にならないと予測できる地点から慎重に火を入れ、状況に応じて計画を調整するというもの)におこすことで、人的被害などをもたらす大火災を防ごうと言うのが現在の結論のようです。
ただ、論議の中で、100年の堆積が人為的なものであることによる不自然さがあるとすると、ある程度人為的な火災や自然発火による火災の結果、その様な不自然な状態を脱した先でも人為的な火災を起こすという方法を継続するのかという質問については、一定の留保をしていました。今は、人為的な火災によってコントロールすることが正しいと考えているが、将来この考え方は修正されるかも知れないと言うのです。





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