を遊ぼう」5-6

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シーン20コカ城(p39〜40)

0)旅人は コカ城(Castillo de Coca)にやってきました。

 実のとろ、長い間この城のモデルがどこにあるのか謎でした。前のシーンも次のシーンもガリシア自治州なので、当然ガリシア地方のことと思っていましたが、どうもカスティーリャ地方に戻って、セゴビア県のようです。セゴビアから47kmほどの小村コカ(人口わずか2000人)に建つ城です。いつものことですが、そのまま描くのではなく、随所に安野さんの創作が組み合わされているのでわかりにくかったのです。まず、間違いないと思います。少なくとも、重要なモデルの一つです。
 1400年頃に立てられますが、城郭設計者から技術者に至るまで、キリスト教側に取り込まれたムーア人でした。このため、ムデハル様式の城郭として、レンガが織り成す模様がとても美しい城になっています。
 19世紀にナポレオン軍により破壊されますが、20世紀になって国の予算を導入して、修復されました。
現在は、カスティーリャ・イ・レオン州立農林学校として使われています。

コカ城の紹介です。
http://www.castillodecoca.com/2008/11/enlaces.html

1)ロバの荷馬車を引く男性が帽子を取って話しかけています
2)椅子に座って杖を突く老人と、ポケットに手を突っ込んで立っている男性がいます。近くのベランダのある家は、コカの村にある家なのでしょう。

3)左 オレンジの木?があって、女性がいます

4)左下 豚が相撲を取っています。
 出典に心当たりが全くありません。明らかに土俵で相撲を取っているので、ヨーロッパ系の話ではないだろうと思いますが・・・日本にも、豚の相撲の話は無いし。これが、ネズミの相撲なら昔話にあるし、カエルとウサギの相撲なら鳥獣戯画というところでしょうが。
 日本の話を、豚に置き換えてできたのでしょうか。

5)相撲の周りにある箱は、ミツバチの巣箱だと思います。ただ、ここではハチが群れていません。いずれにしても、なぜここに?

6)おじいさんが椅子に座っています。相撲は見ていないようです。私なら、こんな面白いこと見逃さないけれど・・・。

7)この家のあたりは、コカの町並みをあらわしているのでしょう。人口2000人の、いい雰囲気の村のようです。
安野さんは、田舎町が好きですね。でも、この町も高齢化が進んでいるようです。
城が農林学校として使われているそうなので、若い人もやってくるのでしょうが。

8)トウモロコシが干している下を、手押し車を押している女性がいます。
9)荷車を引く牛の世話をしている少女がいます。

10)子どもがケンカをしているのを、周りの大人たちが止めています。我を忘れているのか、抱きかかえられているのに3人とも暴れています。近くの女の子は心配しながら見ています。
 この三つ巴の争いは、なにかコカ城の歴史の中であった争いを暗示しているのかも知れません。不明です。

 コカ城を離れて、もう少し大きな視点で見ることができるのかも知れません。
カスティーリャというのは「お城の地方」という意味だそうです。レコンキスタの関係もあって、この地方には膨大な城が築かれているからです。しかし、戦いは何もムーア人(イスラム教徒)相手だけではないわけです。キリスト教国同士でも、戦争を繰り返しています。レコンキスタの視点でみると、まあ兄弟喧嘩なり仲間割れ状態です。ということで、この3人の喧嘩がそれを暗示しているとも考えられます。たとえば、レコンキスタの初期スペイン北部に割拠していたナバラ、レオン、カスティーリャの各王国とか。
 
 この視点で、豚の相撲も考えることができるかも知れません。
 イスラム教徒は、豚肉は宗教的タブーです。それに対して、スペインの重要な食品であるハモン・セラーノは豚肉のハムです。従って、豚を楽しむもの(=キリスト教徒)同士の争いをあらわしているのかも知れません。
 もっとも、鳥獣戯画のカエルやウサギは楽しんでいますし、絵本の豚の表情も楽しんでいますから、争いをあらわしたのではなくて・・・。
「遊びをせんとや生まれけむ戯れせんとや生まれけむ」の精神かも知れません。

11)ケンカをしている子どもたちの周りを、荷物を頭に担いでいる人や鍬を担いだ人が歩いています。

12)変わった形の倉庫があります。ガリシア地方でよく見られる高床式穀物倉庫「オレオ(horreo)」です。雨の少ないカスティーリャ地方に比べて、湿気の多い地方(年間雨量が2000mmを記録するところも)ですから、湿気対策で高床式に作るわけです。
弥生時代の高床式倉庫のようなデザインで、ネズミ返しもついています。木造のものの他に、絵本のように石造りのものがあります。そして、屋根には十字架が飾られることが多いようです。

13)草原に敷物を敷いて、食事をしています。なんだか楽しそうです。スペイン編は他の場所でもピクニック風の描写がありました。
この様子は、何か元になる絵があるように思いますが、不明です。

 お皿が置かれていますが、その中で白地に青い模様のお皿は、ガリシア磁器のブランド「サルガデロス」(SARGADELOS)のものではないかとの説があります。
ガリシア地方には、磁器の材料となるカオリナイト(kaolinite、カオリン石)が産するのです。

14)p40上 羊飼いが犬を連れています。どうも女性のようです。ミレーの絵には、羊飼いの女性がよく描かれていましたが・・・スペインの画家の作品であるのではないかと思います。

 ちなみに、コカ城の写真の中には、羊飼いが写っているものがあるので、コカ城と羊飼いは納得です。
 ドン・キホーテの物語にも、女性の羊飼いがでてきます。
ドン・キホーテ挿絵(女羊飼い) 右図
http://etext.library.adelaide.edu.au/c/cervantes/c41d/p1chap12.html

15)コカ城の城壁の所に子どもの羊飼いがいます。
17世紀のスペインの画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョ(Bartolome Esteban Murillo)の『Christ the Good Shepherd(善き牧者としての幼児キリスト)』です。迷える1匹の子羊をみつけて喜ぶ羊飼いに、神の愛をとくキリスト。それが神の子としてのイメージからか幼子イエスとして描かれているわけです。

ムリーリョは6人の子どもがいましたが、5人をペストで亡くし、6人目の娘も耳が聞こえなかったそうです。こどもたちへの思いを重ねて、愛らしい幼児を描いたのでしょうか。

by forest-door さん

キリスト教においては、羊飼いに導かれる羊たちをキリストとキリスト教徒の例えとしています。ですのでこの絵の少年はキリストを表しています。
まるっきり幼子のキリストか、もしくは成人してからのキリスト像になじんでいたので、この絵のあどけないふっくらとした頬の少年のキリストを見たときは、新鮮でした。でもまなざしが少し悲しげで大人びた感じがします。それはこの先のキリストの生涯を暗示しているからなんでしょうか。

またP.40の上部では羊の群れと羊飼いも描かれていますが、野原ではぐれた1匹の羊を探すため、99匹の羊をおいて探し出す話(ルカによる福音書15)が思い出されますね。


16)旅人の後ろで、農作業をしている人達がいます。 クルリ棒(唐竿:回転脱穀棒棒)を使って、脱穀してるようです。
 多分このような農作業をしている絵があるのではないかと思いますが、不明です。

17)樹皮をはがれたコルクガシがあります。コカ城の付近はコルクガシの北限をすぎていますから・・・別の地方のものでしょう。ガリシア地方なら南のあたりに行けばコルクガシがあるようです。

18)羊の毛刈りをしています。まだ毛が生えていてまるまるとしている羊と、刈り取られてしまってやたらスマートになった羊がいます。毛を刈るために足を縛られた羊もいます。
これは17世紀のスペインの画家フランシスコ・デ・スルバラン(Francisco de Zurbaranが描いた「神の仔羊Agnus Dei(Lamb of God)」です。

縛られた羊は十字架にかけられたキリストを意味します。生け贄の羊とキリストを重ねているわけです。ヨハネの福音書にはキリストのことを「世の罪をのぞく神の子羊」とあるそうです。
 また、カトリック教会における羊は、「境遇への従順、無垢で純粋な命、犠牲の喜び」を表現するものだといいます。
 キリストは、迷える子羊を救い出す存在であり、自ら生け贄になって救う存在でもあるわけです。
この絵は全く同じ構図で、角のあるものと無いものがあります。これは、アメリカのサンディエゴ美術館にあるものです。角のある方はプラド美術館にあります。絵本には角がないようですが、プラド美術館の方が正解かな

19)刈り取った羊毛を集めている女性がいます。

20)右下 輪まわしをしているこどもたちがいます。他の巻でも繰り返しでてきました『子どもの遊戯』にもあります。


 ここは、どこなのか?
 上でも書いたように、左側3/4がカスティーリャ地方のコカ、右側1/4がガリシア地方ということで良いのだろうと思います。そして、最終ページのガリシア地方に旅人は向かいます。


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シーン21バヨナ港(p41〜42)

0)旅人は ガリシア地方のバヨナ(bayona:バイオーナBaiona)港にやってきました。
手前が浜で、すぐ向こうも海です。ここはリアス式海岸ですから、岬が海に飛び出しているようになっているのでしょうか。バヨナには写真のように天橋立風の所があるので、そのイメージでしょう。
ちなみに、リアス式海岸というのは、このイベリア半島の大西洋岸が本家です。

1)牛追い祭りのシーンでもでてきた「Osborneの雄牛」があります。

2)樹皮をはがされたコルクガシがあります。バヨナのあたりは、コルクガシの北限になります。
 大西洋側はメキシコ湾流の影響か、気温が高めなのでしょう。北限が内陸部に比べて北に寄っています。

3)荷物を積んだロバを引く人がいます。
4)白い犬を必死に止めようとしている少年がいます。何で、犬はこんなにひっぱっているのでしょうか?

5)薪割りをしている人がいます。軒下にかなりたくさん積んであります。
6)そばの丸いものは、アメリカ編では何度もでてきましたが。多分回転式の砥石だと思います。

7)畑仕事をしている人と、杖を突いて歩いている人が何か話しています。
8)茂みの中に猫の隠し絵があります。(上下逆になっています)

9)海岸で指さしている人がいます。帰ってきたピンタ号を指さしているのか?去って行く旅人を指さしているのか?

10)オレンジの木が実をつけています。

11)小さな教会があります。写真はバヨナにある教会です。この教会がモデルではないかと思います。

12)旅の友であった馬が残されています。旅人はデンマークに向かっています。

13) 帆船があります。ピンタ号(La Pinta)です。
 コロンブスは、1492年8月3日,約90名の乗組員を乗せたサンタ・マリア号,ピンタ号とニーニャ号の三隻の船でパロス港を出帆しました。旗艦であったサンタ・マリア号は座礁したため放棄。ニーニャ号とピンタ号で、帰路に向かいます。ところが、嵐にあってコロンブスの乗るニーニャ号はリスボンにたどり着きます。そのころ、ピンタ号が一足早く(1493年3月1日)バヨナに着いていたのです。従って最初に大西洋を往復し、その知らせをスペインにもたらしたのは船はピンタ号ということになります。
 バヨナには、ピンタ号の復元模型があります。

14)お墓があります。スペインのお墓には、糸杉がつきものとか。ここにも、糸杉があります。

15)右 牛小屋と牛が2頭います。
16)女の人が、何か持って歩いています。なんでしょう。
17)ブドウ棚があります。
18)異様に小さな小屋があります。結婚式のシーンでも小さな小さな小屋がありましたが??

19)小さな小屋の右側の茂みの中に、オオカミの隠し絵があります。(これも天地逆さまです)
  スペイン編で、3度かオオカミがでてくるのは、実際にスペインにオオカミが生息しているので、そのことをあらわしているのだと思いますが、他に何か意味があるのでしょうか。

20)ブドウ畑の脇にサボテンが生えています。ここは、降雨量の多い地域のはずですが??

21)ブドウを籠に一杯摘んだ女の人たちが休憩しています。
22)子どもが3人遊んでいます。前のシーンで大喧嘩をしていた3人ではないでしょうか。まあ、子どもの喧嘩はそんなものです。
 前のシーンで想像したように、レコンキスタの時のキリスト教徒同士を象徴するとすると、協力してイスラム勢力に当たっている姿を、暗示しているのでしょう。
 ところで、一人は長い棒を持っています。釣り竿でしょうか。すると、「浦島太郎」で亀をいじめている子どもたちにも見えます。
 もしそうなら、亀はイスラム勢力(ムーア人)ということでしょうか。浦島太郎は現れないようです。

23)荷車に何か積んであります。ジャガイモでしょうか?

24)浜には船が3艘+1艘あげられています。

25)ここにもオレオが立っています。右側のオレオには十字架が掲げられていません。あるなしには何か訳があるのでしょうか。

26)洗濯物が干されています。
スペイン編では、とりわけ多く洗濯物が描かれていました。ここには、カタルーニャ旗のような洗濯物があります??

27)向こう向きに座った女性がいます。何か作業をしているようなのですが?不明です。
28)船が一艘引き上げられています。引き上げるのに、使う手動の巻き上げ機があります。

29)テーブルに座った男性がいます。どういう人でしょう?

30)オレオのネズミ返しに阻止されているネズミがいます。


旅人のスペインでの旅は終わりました。
コロンブスの新大陸発見の影が、第4巻のアメリカ編から続いて、最後まで貫かれました。
バヨナは小さな漁港ですが、ピンタ号が訪れたことで歴史に名をとどめています。
コロンブス自身は訪れていないのに、コロンブスの銅像があったりします。
バルセロナにも(こちらはコロンブスが訪れていますが)、行かなかったはずのサンタ・マリア号の復元模型がありました。
スペインの人にとって、コロンブスの栄光は忘れがたいのでしょう。

さて、旅人が次に向かうのは、デンマークですが、スペインとデンマークの関係は何があるのでしょうか、それに対する答えは、デンマーク編で見つかるでしょう。


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「裏扉」
 例によって、扉の絵の鏡像です。
 描かれた教会は、特定できませんでしたが、スペインの旅を終えて改めて見てみると。この教会は、サンティアゴへの巡礼路の途中にある教会の一つではないかと思います。特定の教会というより、沢山の小さな教会のイメージを凝縮しているのかも。



スペインの旅を終えてみて、マドリードの不在が気になります。国を特定していない1巻をのぞくと、イタリア編のローマ、イギリス編のロンドン、アメリカ編のワシントンといずれも首都は、明確に描かれていました。

 ところが、このスペイン編では、首都のマドリードは意識させるものの、ついに明確には描かれていません。
 一方で、スペインの中にある独自の文化を持つカタルーニャやバスク地方、アンダルシア地方、ガリシア地方の並んで、カスティーリャ地方も描かれてはいます。トレドもチンチョンもアビラもセゴビアもコカも丁寧に描かれています。ところが直前まで来て、マドリードだけ飛び越されるのです。ただ、市場はマドリードの市場だったかも知れないし、野外美術館はマドリードのプラド美術館所蔵の作品が多くでてきました。とにかく、十分にマドリードは意識させられるのです。マドリードには世界遺産の王立エル・エスコリアル聖ロレンソ修道院など描く対象がいくらでもあると思うのですが・・・。きっと、安野さんには、なにか明確な意図があってのことだと思うのですが、探り切れませんでした。

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