センチィネルドームで悠久の時を感じる

ヨセミテ3日目はセンチネルドームとタフトポイントへ行きました。グレーシャーポイントロードの終点の少し手前に登山口があります。登山口には駐車場とトイレがあるだけです。東に向かえば1.6マイルでセンチネルドームへ、西に向かえばやはり1.6マイルでタフトポイントへ着きます。いずれもわずか往復3.2マイル(5kmあまり)歩くだけの事ですが、一般観光客はグレーシャーポイントへ向かうので、あまり来ません。逆に言えば、ここでは静かにゆったりと絶景を楽しむ事ができるのです。
登山口からの1.6マイルは例によって自然観察を続けながら楽しく歩きます。やがてセンチネルドームが見えてきます。花崗岩だけが露出したドームです。「オッ!どこから登るの」と思わせるような風景ですが、東側に回り込んでドームの登り口に付きます。そこからは、グレーシャーポイント(車で直接行くことのできる一般的になビューポイント標高2199m)にもトレイルが続いています。ドームの登りは手すりも何もありませんが、花崗岩に靴が吸い付くようで、気持ちよく登って行けます。センチネルドーム(標高2476m)頂上は比較的なだらかで広いのに他の人はほとんどいませんから、とてものんびりした雰囲気です。しかも、絶景です。グレーシャーポイントより280mほど高いだけですが、周囲は360度さえぎるものもなく、シェラネバダ山脈が延々と見渡せ、ハーフドームやエルキャピタンそれにバレーの中も見ることができます。私の中では、ヨセミテ一番の眺望です。
草木一本無い頂上と言いたいところですが、強風のためか見事にねじれたジェフリーパインが一本、
岩の隙間から生えています。残念な事に1979年に枯れてしまったのですが、それでも花崗岩だけの山頂にアクセントを付けていて、絵になります。到着後は皆、その眺望を存分に楽しみ、記念写真を撮って堪能するまでインストラクターのシャーリーさんは待っています。
そして、ハーフドームやシェラネバダ山脈をバックにして座って、ヨセミテとシェラネバダ山脈の成り立ちについての講義です。黒板もチョークもスライドも無い講義ですが、目の前には彼女の話してくれる実物が広がっています。話は人類の生まれる遙か昔の地質時代のことから始まります。
日本列島もその中にある環太平洋造山帯の東側、北米プレートと太平洋プレートのせめぎ合いの中で、隆起作用が起こりシェラネバダ山脈ができあがってゆきます。地下の深いところでマグマが固まってできる花崗岩の上には、変成岩がのっかっていて、重なったまま隆起します。変成岩の部分は浸食作用で現在ほとんど見ることができなくなっています。そして氷河時代シェラネバダ一帯は氷河に覆われ、氷河による強烈な浸食作用を受けます。ヨセミテバレーが両岸切り立った岸壁に囲まれているのも、河川の浸食でなく氷河による浸食によって、U字谷になっているからです。氷河による浸食は大量の岩石を削り運びますから、その末端部に大量に岩石がたまり、氷河の後退と共に小山となって残ります。これをモレーンと言いますが、その一つがヨセミテバレーの中にも残っています。エルキャピタンの裾の辺りマーセド川を横切って盛り上がっています。車道はモレーンの上を横切りますが、意識しないとそれと気づくことはできません。
このようにしてできたシェラネバダ山脈の高い部分は、花崗岩が露出していて、夏でも白い山脈を見せているのです。
現在の科学では、石ころの一つ一つから、もとの岩とのつながりを知ることができます。例えばハーフドームを形作っている岩石の片割れがどこに存在するのかも分かります。なんと、サンフランシスコの海の中にハーフドームとかっては一体であった花崗岩の砂が見つかるのだそうです。
遙か離れた大都市サンフランシスコとシェラネバダ山脈との関わりは、土壌だけではありません。雨の少ないカリフォルニアの気候の中で、冬のシェラネバダには大量の雪が降ります。冬に太平洋から運ばれてくる湿った空気が山々にぶつかり、雲を作り雪を降らせるからです。春になると雪解けが起こり、本来なら乾燥地帯のセントラルバレー(カリフォルニア州の中央付近を南北に広がる盆地で、砂漠あるいはステップの気候区です)を潤します。こうして、乾燥地帯であるにもかかわらず、膨大な農産物の産地になっているのです。さらには、雨の少ないサンフランシスコやロサンジェルスに、大切な生活用水を供給するのです。
この場所に来て、彼女の話を聞くカリフォルニアの子どもたちは、この美しく壮大な自然にふれながら、この自然が自分たちの生活と密接につながっていることも学ぶことになるのです。



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