草原でコウモリの鳴き声を聞く



《クレーンフラットの草原》
草原の端からは森は進入してこれない
ヨセミテインスティチュート(YI)の辺り
をクレーンフラットと言います。YIの前に
は小さな(あくまでヨセミテ的スケールでで
す)草原があります。何故草原になってるの
でしょう?
答えは意外でした、水が豊富だからです。ヨ
セミテはとにかく見渡す限りの森ですが、林
床に入ってみると、その乾燥状態には驚くば
かりです。とにかくぱさぱさ、深い原生林な
のにコケはほとんど見ることができません。
ところが、草原になっているところには湿気
があるのです。と言っても、日本の湿原のよ
うな状態ではありません。ただ、他が乾燥し
きっているので、草原に入ると確かに湿気
を感じるのです。それにしても、そんな条
件で草が生えるのは分かるのですが、木が生
えないのは何故?と思ってしまいます。ところが、これも湿気が原因だったのです。
(再度断っておきますが、湿原状態ではありません。)思うに、極度の乾燥に適応した
木にとって、日本でなら大したことも無い土壌中の湿気の多さが、致命的になるような
のです。根腐れないし根がおぼれる状態になって、立ち枯れてしまうようです。非常に
長いスパン(数十年とか数百年)で見ると、草原周辺のどこら辺りまで湿気が多いかの
変化にあわせて草原のエリアの増減(森林エリアの減増)が起こっているようです。植
物の生育にとって、光と水分は不可欠ですが、どちらもそれぞれの種によって多すぎて
も少なすぎても良くないようです。当たり前と言えば当たり前なのですが、改めて確認
ることになりました。
さて、この草原にインストラクターのシャーリーさんに案内されてナイトハイクで行
きました。草原の中に入ると、グッと気温が下がります。防寒着を持って来ていな
かった女性参加者の中には耐えきれずに、YIに帰る人も出ました。草原の中に座っ
たり横になったりしながら、星座の話など大いに楽しみました。暗くなり始めた所で
出かけて、最初は惑星や一等星しか見られない状態で始まって、次第に星の数が増え
てきて、ついには満天の星です。とにかく街灯の明かりが無いのが良いし、草原でや
たら空が広いのもあって最高でした。
シャーリーさん風の星の説明の仕方も面白いし、蓄光塗料を使った独自の小道具も面
白いものでした。説明の途中から、周囲でチィチィチィチィとかすかに聞こえてくる
鳴き声が気になり出しました。仲間に何だろうと小さな声で聞くとネズミではないか
と言います。そう言えば、確かに草原の穴から顔を出して鳴いているネズミのような
気がします。でも、上空からも聞こえてくるような気もします。コウモリではないだ
ろうか?ただ、たまに聞く事のできるコウモリの超音波から漏れる、可聴域の音とは
違うのです。漏れていると言うよりも、連続的に聞こえてくるのです。日本でもヤマ
コウモリが、可聴域の音を出してエコロケーションをしていると聞いた事があったの
で、その類かとも思いますが、とにかく聞いた事が無いので自信がありません。思い
あまって、星の説明をさえぎって、チィチィチィチィと鳴く音源について聞いてみま
した。シャーリーさんはコウモリの鳴き声でしょうと、軽く返されました。彼女に
とってはさほど珍しくも無い現象のようでした。私の方は、そうかやっぱりコウモリ
の鳴き声だったかと、うれしくなってしまいます。
その夜、私は草原に寝ることにしました。寝袋
を広げて静かに横になって満天の星を眺めなが
らの贅沢な夜です。欠点と言えば、近くの道を
深夜なのに時々車が通って静寂を破ることと、
よるが深まるにつれて進む寒さくらいでした。
一人静かに横になっているとチィチィチィチィ
とコウモリの鳴き声が聞こえてきます。今度は
一人で、他の音が全くない状態ですので、鳴き
ながら移動してゆく個体の位置がほぼ特定でき
るようになってきます(わたしが日常的に見る
コウモリに比べると桁違いに密度が低いようで、
音で個体をある程度識別できるのです)。比較

《草原の寝床》
的低い位置を飛ぶ事が多いように思われます。最初仲間に確認したときに、ネズミだろ
うと言われたのも、鳴き声の多くが草原すれすれの低い位置から聞こえてきたことが
原因だったと思います。街灯も月明かりも無い夜ですから、なかなかコウモリの姿を確
認することはできませんでしたが、音を追って場所を予測している内に、鳴き声が天の
川を横切ったのです。その瞬間、確かにコウモリ独特の黒い影を見ました。
面白いことにチィチィチィチィの鳴き声は一晩中聞こえました。日本で見るコウモリ
の影は深夜には減ると思うのですが、朝まで目を覚ますと聞こえてきます。まれに、
聞こえないかなと思っても、起きあがると又鳴き出すのです。
森の中で寝たときにはコウモリの鳴き声は聞けませんでしたし、別の日に草原のはず
れの森の中で寝たときには、鳴き声の量が少なかった事からすると、やはり草原の中
が餌の虫が多いのだと思います。それも、飛び回る低さから想像すると、虫は草原の
比較的低いところに多いのではないかと想像します。
あるいは、早朝森の中で見たコウモリは鳴いてなかった(可聴域の音を出していな
かった)ので、森の中では低い音でのエコロケーションはうまくいかないのかも知れ
ません。種類が違う可能性も大です。
ともあれ、草原の中ほどではないにしても、YIの周辺でも夜に心を落ち着けると
時々チィチィチィチィと鳴き声が飛び込んできます。どこかに来てるなと思いながら
YIの暗い庭を楽しく歩いたものです。
※その後、この謎の声の主は、オヒキコウモリではないかと思われる資料に数点ぶつかりました。オヒキコウモリは日本では発見が少なく、レッドデーターにも入っていて、しかも情報不足となっています。
以下の文は、「信州のコウモリ」からの抜粋です。
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夏山で聞こえる謎の声
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 夏山に登ると夕暮れ時にどこからか「チッチッチッ」といった動物の声が聞こえるがなんだろう?という話題があります。これが今バットウォッチャーの間で静かなブームになっている「なぞこえ」です。普通のコウモリは餌や飛行場所の状況を人間の耳には聞こえない超音波を発してその反響音を聞くことによってするのが大きな特徴です。音波を使ったこれをエコロケーション(反響定位、echolocation)と言います。オヒキコウモリの仲間(Tadarida属)には人の耳に聞こえる音(可聴音波)でこれを行うものがいます。姿はなかなか見えないが、声だけがチッチッチッと空中から高速移動しているように聞こえるこの「なぞこえ」は、1996年にコウモリの会が呼びかけてみたところ日本全国から聞こえると反応がありました。また、その後の調査や聞き取りで中国や台湾各地でもあることがわかってきました。

http://www005.upp.so-net.ne.jp/J-BAT/SBAT/OHIKAWA.HTM
上記ページもご覧ください。(河口湖で見つかったオヒキコモリの情報等があります。

又、広島県の修道学園では、校舎の中にオヒキコウモリのコロニーが見つかったというので、ニュースになったことがありました。
その記事は無くなったので、そのことにふれたHPの内容です
http://www.asazoo.jp/doubutu/story/1ohiki/ohiki.html

《草原で見つけたクマのフン》

《草原の端に落ちていた鳥の巣》

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