マーセドグローブでのディープな一夜

《コーンの色々》
マーセドグローブ、それはいくつかあるジャイ
アントセコイアの群生地の一つです。セミテ最
大のマリポサグローブに比べるとジャイアント
セコイアの数でも大きさで随分見劣りがする場
所です。しかし、私にとってはマリポサグロー
ブ以上に特別な場所になりました。
ここは、あまり大きな群生地ではないこと、駐
車場から遠いことなどから一般の観光はほとん
ど来ない場所なのです。観光客が多数押し寄せ
る場所では、地表近くに根を張るジャイアント
セコイアを守るために人々を近づけないように
している規制も必無くなります。それだけでも
素敵な事なのに、その場所に入る入り方

からして私たの心を静かに深くするものだったのです。駐車場を離れるとすぐにインス
トラクターも含めて全員が時計をはずし荷物のそこにしまい込みました。時間に縛られ
ないプログラムの始まりです。体内時計と太陽の動似合わせての活動です。そしてマー
セドグローブに至る最後の分かれ道に来ると、ここからは一人一人歩いて行こうという
提案です。しかも、5分間隔です。この時の参加者21名これにインストラクター2人
を加えて総勢23人、5分間隔でスタートをすると言うことはスタートだけで約2時間
かかることを意味します。時計をはずしたことを含めてもうセコセコした活動とはおさ
らばと思いました。
まずインストラクターのジョシーが先頭を切ります、その後5分間隔(と言っても時計
はないので残ったインストラクターのシャーリーの体内時計で適当にですが)でひり一
人スタートして行きます。前の人に追いついても話しかけることも追い抜くこともしま
せん、てんでにスピードをゆるめ立ち止まり自然を感じます。私はほとんど最後にスタ
ートしましたが約2時間の待ち時間を退屈す
ることはありませんでした。それぞれが森の
中にはいて楽しみます。クマのフンが見つか
ります。どうも前年の秋に落とされたもので、
マンザニータの種がいっぱいのフンです。完
全に乾いていてにおいをかいでみると香ばし
い香りがします。あるいは大小の松ぼっくり
やキノコなどが見つかってきます。シャリー
の話すお話を聞いているのもエキサイティン
グで瞬く間に時間は経過していました。自分
の番になってゆっくりと歩き始めます。とて
もゆっくり歩いたはずなのに20分くらい歩

《シャーリーさんを囲んで》

くと前の人に追いついてしまいました。その人ももう一人前の人が恐ろしくゆっくりと歩
いているようなのです。そこで私自身のギアをさらにローに落とすことにします。歩いて
いる時間より止まっている時間の方が長くなり出します。その内私の後からスタートした
人も追いついてきますが、何しろ時計無しの活動です。かまうことはありません。こうし
て静かにゆっくりと歩いて行くとシャカシャカ歩いている時には見ることのできない、聞
くことのできないものを感じることができます。
古い倒木の破砕した幹の中にしみ出している樹
液を見つけてなめてみたり、倒れた折れ株(切
ってないのだから)の年輪の不思議な並び、木
の幹でなく枝に留まってさえずっているキツツ
キ等々どんどん飛び込んでくるのです。私の大
好きなサイレントウォークのような気分です。
そして、セブンシスターズとの出会いです。そ
れは、マーセドグローブが始まる入り口のとこ
ろに固まってはえている7本のジャイアントセ
コイアのことです。ほとんど同じくらいの大き
さで、7本の内5本は密生して直線上に並んで
います。直線上に並んだ5本は倒木更新(倒れ
た木の上に着床した種が発芽してあたかも人間
が植えたかのように直線的に木が生える)によ
るものだろうと思います。日本の原生林では普
通に見られる倒木更新ですが夏季の乾燥が激し
い自然条件の為に倒木の上にもコケなどがつか
無いためか、他では倒木更新と考えられるよう
な例は見ることができなかったのです。ところ
が局地的に湿気が多い場所だったので倒木にコ
ケがつき着床が起こったものと思われます。
ともあれ、巨大なジャイアントセコイアが寄り
添うように静かに立っている姿は、不思議なも
のでした。そこまでの静かなゆったりとした歩
きによって、心を静かにさせ、森のありようを
そのままに受け入れる心根になっていましたか
ら、セブンシスターズと向かい合うだけでイン
ストラクターのシャーリーが毎回彼女たちに許
しを得てグローブに入ってゆくように、私もそ
れぞれに一本一本のジャイアントセコイアにさ
わり見上げ語りかけながら許しをもらって森の
中に入って行く気持ちになりました。セブンシ
スターズを過ぎて、何本かのジャイアントセコ
イアを過ぎて行くとこのソロウォークのゴール
であるロッジに着きます。このロッジはヨセミ
テインスティチュート(YI)が管理しYIの
プログラムの参加者だけに使用が認められてい
る丸太小屋です。それは大草原の小さな家のロ
ーラが出てきそうな小さな小さなログハウ
スです。かっては見張り小屋として作られた歴
史的な建造物を、忠実に復元したものだそうで、
余計なものは何もありません。小さな板の間が
2つ、そして小さな台所が一つ、それだけです。
台所にはカナダ製のマキかまどが一つ、反対側
に流し台が一つ。流し台にはフィルターが一つ
取り付けられています。水は近くの小さな沢で
汲みすべてフィルターで濾過して使います。そ
のままの水を飲むことも手を洗うことも禁じら
れました。したがって顔を洗うのも歯を磨くの
もコップ一杯くらいの水ですませてしまいます。
トイレは大の方だけ外の溜め込み式のトイレで
すまします。そして食器洗いに使った洗剤入り
の汚水もトイレに捨てます。タンクが一杯にな
ったら回収にやってくるようです。こうして小
屋が存在することでグローブに与える影響は最
小限に押さえる努力がされているのです


       《セブンシスターズ》

《ヨセミテには珍しく樹皮に苔がついていました》

     《マーセドグローブのロッジ》
小屋を中心に時間を気にすることも無くいくつ
かのアクティビティーを体験します。何とも贅
沢な時です。夕暮れが近づくと夕食作りの担当
者以外の人たちは森を散策です。シャーリーが
ジャイアントセコイアの下で歌い出します。カ
ーペンターズのナンバーを中心に澄み切った美
しい歌声です。何となく人が集まってきて楽し
そうに聞いたり一緒に口ずさんでいます。
夜は各自森の中の好きな所で寝ることができま
す。セブンシスターズの所に戻って木
の間に寝ようと言う人、小屋の近くで寝ようと
言う人、もっと森の入って一人でジャイアント
セコイアに寄り添おうという人と、それぞれで
す。私も一人で向かい合える
ジャイアントセコイアをさがして森の中をさまよい歩きました。沢に向かう踏み後ら
しき道をたどると大きなジャイアントセコイアの下に出ました。ここで寝ようかなと
思いながら周囲を見渡すとなんだか雰囲気が違う場所があります。ひかれるままに沢
に近づいてみるとジャイアントセコイアが根こそぎ倒れて沢をまたいで橋のように
なっています。セコイアの橋は沢の向こうの広場に続き、その広場にもジャイアント
セコイアがそびえ立っています。橋の下の沢は、気持ちのいいリズムを刻んでいま
す。ここだと思いました。あなたは今夜ここで寝るんですよと何かが、語りかけてく
るように感じました。
夕食を終えるとジョシーが一つのアクティビティーを始めます。まず彼女がこの場に
いられることやこの大地のあることこの森のある事への感謝の気持ちを述べます。そ
れに続いて参加者のひとり一人がランダムに家族に仲間に自然にそれぞれの感謝の気
持ちを表してゆきます。それはまるでかってスエットロッジの中で体験したような深
い語りでした。
森の中でのソロ活動を前に,皆を私の見つけた特別の場所に案内しました。すでに辺
りは暗くなっていましたが、ブッシュをかき分け沢の所に行くと、横たわるジャイア
ントセコイアの上に座ってもらいました。メンバーのKさんが持参の尺八を披露してく
れます。沢の音と尺八の音が混然となって不思議な美しさを醸し出します。演奏が終
わるとネイチャーゲームの「スチールネスメディテーション(静寂の瞑想)」を行っ
てみました。気持ちのいい瞑想の後は「ネイチャーチューニング」で場の波長にそれ
ぞれの人の波長を合わせて行きます。2つの活動はこの後で行う森の中での野宿が,
怖さとの闘いでなく、楽しみであって欲しくて行ったのです。
皆がそれぞれの場所へ散っていった後 、私は特別の場所に舞い戻ります。沢を超えて
横たわるセコイアは上の部分が微妙にくぼんでいておあつらえ向きのベットです。寝
袋を広げて横になります。頭の下には沢音が気持ちよく鳴り響いています頭上には
星々が輝いています。その星たちの中に黒々とセ
コイアやパインのシルエットがそそり立ちます。
夜中に目を覚ますたびに、沢音と星とセコイアの
シルエットです。とびきり贅沢な一夜でした。沢
の上というシチュエーションのため明け方の冷え
込みは厳しくかなりつらいものがありましたが、
むしろそのために何度も何度も目が覚めて少しず
つ変化する森の様子をたっぷりと楽しめました。
早朝には沢の中にミソサザイ大の小鳥が 鳴いて
います。ピシィピシィとバードコールをしてみる
と、沢の中を少しずつ近づいてきます。そして、
ついにベッドにしているセコイアの下を通って反
対側から出てきます。しばらく、さえずった後で
森の中に帰ってゆきました。これを機に起きるこ
とに事にしました。とても楽しい一夜の終わりです。

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