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シーン13闘牛場(p25〜26)
0)旅人は 闘牛場の前にやってきました。どこの闘牛場でしょう。マドリッドの南東の街チンチョンChinchonだという説、ロンダの闘牛場との説、セビリアの闘牛場との説が有ります。関わっている物語からするとセルビアのマエストランサ闘牛場が適切です。ところが・・・
そもそも、闘牛場はそれぞれの街の大広場に、仮設の柵をもうけて催されていました。しかし、それでは建物の角に牛が逃げ込んだり、開催ごとに仮設工事と取り片付けが必要です。そこで、18世紀になると円形の専用闘牛場の建設が始まります。ロンダもセビリアも常設の巨大な闘牛場です。これに対して、現在でも伝統的なマヨール広場(Plaza Mayor)を使って闘牛を行う所も有ります。その一つがチンチョンなのです。少なくとも、闘牛場の雰囲気や、周囲の様子は、チンチョンです。そして、最後の決め手、安野さんはあとがきで『80日世界一周』の映画(1956年:米国)に触れておられます。撮影に使われた闘牛場はチンチョンでした。
80日間世界一周の予告編を見ることができます(闘牛シーンあり、短時間ですがチンチョンの闘牛場であることが分かるシーンが有ります)
http://homepage2.nifty.com/e-tedukuri/AroundTheWorldIn80Days.htm
1)左上 映画『カルメン』の撮影中です。男の人がナイフを持ち、フラメンコドレスを着た女性を刺そうとしています。女はカルメン、男はカルメンのために兵舎を脱走し、密輸や山賊をする中に入り、カルメンの夫を決闘の末に殺してしまったホセです。
カルメンは闘牛士とつきあっているのです、「なにもかも水に流すからと」いうホセに、彼女は「カルメンはどこまでも自由だ」といいきります。そして、ホセはカルメンを殺してしまいます。この場面合の撮影でしょう。
2)闘牛場の中では、ぎりぎりでスラリとかわすはずのマタドールが、逆に牛に倒されてしまったようです。他の闘牛士が駆け付けています。牛の気を引くためムレータ(赤い布に木の棒をついけたもの)を振っている人もいます。
『カルメン』に出てくる闘牛士の結末ではありません。
ビセンテ・ブラスコ・イバニェスの小説『血と砂Blood and Sand』が有ります。この小説を原作として、1922年米国で映画化されています。『血と砂』の主人公ガリャルドは、最後に牛の角に脇腹を刺されて、闘牛場の黄色い土は血の色に染まります。主人公の妻の名はカルメンです。スペインでは、カルメンはよくある名のようです。ちなみにこちらのカルメンは、貞淑な妻です。逆にガリャルドの方が貴族の女と浮気をして、自堕落な生活をしたあげく、集中力を欠いた状態で闘牛に出て刺されます。苦しい息の中で、連れ添うカルメンに許しをこいながら息を引き取ります。
1922の映画は、サイレントでした。1941年と1989年にリメイクされています。89年のものはスペインで映画化されています。絵本はこちらの映像からとられているようです。
この映画の舞台になっている闘牛場はセビリアです。
スペインで大学の先生をしておられた加瀬 忠さんの「マドリッド通信」の中で
スペインの春・秋祭りの「闘牛」に、実際に闘牛士が、トロス(牡牛)に倒されたシーンを見た時のことを書かれています。闘牛の全体の流れも良く整理されていて、分かりやすいです。
http://kasespain.muybien.info/tushin/tushin118.htm
3)闘牛場の柵のあちこちから、助けにゆこうと飛び出しかけている闘牛士がいます。
4)闘牛場は、普段はマヨール広場として使われている所です。バルコニー付きの建物が見物席となり、牛の突進を避けて闘牛の場所を区切るために見物席の前に板で仕切っています。チンチョンの闘牛場はこのように使われています。国旗柄に塗られています。
5)バルコニーを使った観客席の右端 二階席にカバとライオンがいます。・・・これはいったいなんの暗示でしょう?何か、絵本があるのでしょうか??
あるいは、動物虐待であるとして非難されている闘牛ですから、動物代表で視察にきているのでしょうか。ちなみに、百獣の王ということになっているライオンですが、雑食で肉食もするカバはそれ以上に強いそうです。牛が負けたら、代わりに出るつもりでしょうか。
写真はグラナダの闘牛場の上部の観客席です。円形の闘牛場ですが、絵本の様子とよく似ています。
6)2階のバルコニーには、ライオンから右に、4人は闘牛場に目がいっている男性。男性が3人、真ん中の女性は左手を頬にあてて手を組んでいます。「アッ」と手を口に持っていったのでしょうか。
7)男性5人が続いて、その隣は、家と家をつなぐようにアーチが作られている部分でしょう。
8)アーチの左側は、カップルの観客が4組続きます。
9)一人おいて、2階の屋根のひさしの所にも、国旗柄の飾りが施してあります。
10)緑の服の人は、手を前について身を乗り出すように、事故を見ています。
11)茶色の服の人は膝に手を置いて、左の手を前に置いている人と話しているようです。これは、大変なことになったと思っているのか。
12)二人置いて、立って腕を組んでいる人がいます。やはり、事故を心配しているのでしょう
13)建物を移って、左端の人は、望遠鏡で見ています。
14)1階席にも沢山の人がいます。手を挙げて、驚きをあらわしている人もいます。
15)右下 家の間から闘牛場の中をのぞいている人達がいます。チンチョンの町にも、右の写真のようなところがあります。
16)槍を持って立っている人は、何をしているのでしょうか。番兵?通りの向かい側にも立っています。
17)プロテクターと目隠しを付けた馬が5頭います。闘牛の前半で、ピカドールが馬に乗って槍を刺すときに使われる馬です。馬が闘牛の攻撃で傷つかないように工夫されたものです。耳栓もしています。
18)下の路地で 椅子に座って籠を作っている人がいます。壁には籠が吊してあるので、販売中かも知れません。(※籠は、ロバに荷物を載せるための背籠であろうと思われます)
19)女の人が籠を持っています。
20)黄色の実の付いている樹は、オレンジでしょうか
21)木の向こうに男女が立っています。
22)壺をテーブルの上と下に並べています。バルコニーの下に吊しているのは看板代わりでしょうか。お客さんとお店の人がやりとりしています。壺は水差しのようです。
これは、壷を売っているのではなくてアグワ(水)を、売っているのだと思います。空気が乾燥しているので、壷から水が蒸発してゆきます。そのため、気温より5〜6度冷えた水になるようです。ちなみに、飲み方は、コップを使わずに壷を高く掲げて、口をつけずに一気にのどに流し込むのです。コップも用意されているようですが・・・こちらがスペインらしいのです。
テーブルの下の大きな壷は、水をためておいてある壷でしょう。
23)倒された牛が、馬に引かれています。ここがマドリードやセビリアの第1級や第2級の闘牛場なら、闘牛場に解体場もついていて直ちに解体するようです。チンチョンにはどうなんでしょう。別の所へ連れて行くのでしょう。もちろん、牛肉は食べられることになります。
24)壁の所に男性が一人座っています(製本の関係で見えにくくなっています)
23)壁には、2003年と書かれた闘牛のポスターが貼られています。
24)修道女が二人立っています。この人たち、ロシオのシーンでは別の修道士と3人で立っていました。
25)子どもが二人かけています。セビリアのシーンでも走っていました。
26)男が二人立って、右側の男が指さしています。修道女を指さすのは、礼儀に反することでしょうから、引きづられている牛のことを話しているのでしょう
27)女性が二人立っていて、台車を押している女性とバケツを持った女性が話しています。バケツには何が入っているのでしょう。
28)テーブルに飲み物が沢山並べられていて、男の人が椅子に座っています。お客さんでしょうか。隣の赤い水玉の女性が売っているのかな。
チンチョン名物のアニス酒Anisではないかと思います。
あるいは、チンチョンにはゴヤの「チンチョン伯爵夫人」の絵をラベルに使ったワインが売られているそうです。
29)鉢植えの花を売っています。シャコバランのように見えますが。ゼラニウムやベゴニアが多いとも。
30)旅人の向こう側に、ほぼ同じ雰囲気で馬に乗っている人がいます。
31)水場が有ります。
32)ひったくり事件が発生しています。青いスカートの女性のハンドバックを、ひったくって走っている男がいます。併走している男は共犯者でしょうか?それとも逮捕しようとしているのか?、左端で待っている男は・・・待ちかまえてこの男をつかまえようとしているのか、それとも共犯者か? 旅人の後ろの白い服の女性と太鼓腹の男性は、驚くだけで何もできていません。
33)犬も走っています。この犬は、結婚式のシーン以来これで5回目か6回目のピカソの犬です。
34)フラメンコ衣装を壁に吊しています。売っているようですが?
店の前にはベンチや椅子に座った男性がいて、入り口の所に立っているのも男性です。女性の服を売る雰囲気とは違うような。ただ、ベンチの所に立っている男性が声をかけているのはバックを持って歩いている女性です。
by forest-doorさん お店やさんでは壁に陶器の皿が飾られていますね。スペインでは、マジョリカ焼き、タラベラ焼き、グラナダ焼き、セビリヤ焼きなどがあります。 グラナダ焼きとセビリヤ焼きはイスラム文化の影響を大きく受けていて、マジョリカ焼きやタラベラ焼きは色彩豊かなものが多いそうです。 |
by forest-doorさん 「ラス・メニーナス」とは「女官たち」の意味で、中央のマルガリータ王女のまわりには女官や道化師たちがいます。 左端で絵を描いているのはベラスケス自身。ベラスケスが国王夫妻の絵を描いている(奥の鏡に国王夫妻が映っている)ところにマルガリータが入ってきたという設定のようです。 ただマルガリータを描くのではなく、国王夫妻から見た視点で描いているんですね。 以前に見た、滋賀県立美術館の展覧会「コピーの手法」展では福田美蘭さんがこの視点の転換とでもいう手法で、マルガリータの左にいる女官から見た視点での絵を出品されていて非常におもしろかったです。 また、小川信治さんはマルガリータだけがいない絵「WITHOUT YOU ラス・メニーナス」を描かれてました。 ラス・メニーナスはよく知られている絵だけに、それをもとに引用しやすいんでしょうね。 でも、知っている絵でも、すこし視点を変えてみると全く受ける印象が異なってくるものですね。 |
by forest-doorさん P.27左下ではお葬式が描かれ、お棺が地中に埋められているところのようです。 泣いてそばの人にすがる女性がいます。安野さんはこの絵本のシリーズで、結婚式やお葬式を多く描いているように思います。人と人との出会いと別れ、そんな涙する人生のひとコマを切り取りたいと思っていらっしゃるのかな? |