「モヤさん」の人と自然の出会い旅U

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人と自然の出会い旅04

祈りを捧げる巫女の姿に心引かれて


 参加者の数人が集まって、ワイワイ言っています。場所は高知県の香北町というところです。季節は晩秋、ネイチャーゲーム指導員養成講座の中でのことです。何だろうと近づいてみると、皆の視線の先には、桜の枝に止まった大きなカマキリがいました。そしてそのカマキリは産卵の最中だったのです。フィールドでカマキリの卵塊を見ることはよくあります。うす茶色の色々な形をした卵塊を見つけるとなんだかうれしくなってしまいます。

 しかし、産卵の現場に立ち会ったのは初めてでした。しかも、その色は、それまでの私の常識を超えた色でした。カマキリの写真集を持っていて、産卵中の写真も掲載されています。それには、普段見る色と違って、白色の卵塊が写っています。ところがその時のカマキリが生んでいたのは、白っぽいブルーだったのです。ミント系のチューインガムを噛んでのばしてくるくると丸めたような質感なのです。エーっと思ってしまいました。(何人も一緒に見ています、確かに青色がかっていたのです。)とにかく、もうそれだけで神秘的というか何というか、皆感動していました。

 皆も集まってきて見つめる中、それはそれは、ゆっくりと時間をかけて産みつけてゆきます。しばらく、皆で盛り上がった後、ゲームに戻りました。皆それぞれに、あいまあいまにカマキリのところへ行きますが、産卵は終了しません。産み続けているのです。とうとう夜になり、早朝見に行くとやっと産み終わろうとしていました。夜の間は休憩していたのかも知れませんが、何とも長ーーーーい産卵でした。その長い時間、外敵に身を晒したまま場所を変わることもできず、産み続けていたのです。なんだか、その長さだけでも感じるものがあります。ちなみに、青みがかった色は、緑がかった茶色に変色しつつありました。そして、その日の夕刻には、見慣れたうす茶色になっていました。

 別の機会のことですが(地元、福山でのネイチャーゲームの会のことです)、参加者が集まって来る前に、最後の下見をスタッフでしているときのことです。植え込みの中に、産卵中のカマキリ発見。おーーー!!。スタッフだけで見るのはもったいないので、近くで釣りをしていた少年も呼び込んで、見入ってしまいました。ちなみに、この時の産卵中の卵の色は、写真集と同じ白色でした。

 この高知での講習会は、随分カマキリに縁のある講習会で、別のゲームをしているときに、今度はカマキリとスズメバチの死闘の現場に遭遇しました、がっちりと鎌に挟まれてしまったスズメバチは、必死でカマキリを刺そうとしています。カマキリは、鎌の位置を適当に延ばしていて、ぎりぎりのところでハリが、カマキリの胴体にとどきません。そして、かまわず頭の方からガリガリとかじろうとしています。これも、皆で盛り上がって観戦してしまいました。数時間後、戦いの結果はいかにと現場に行ってみると、頭と胸のない腹だけになったスズメバチの遺骸が転がっていました。なんだか、自然の厳しさまで見てしまったように思います。
 
 この高知での講習会は、つくづくカマキリと深い縁が有ったと思います。最終日の朝、「サイレントウォーク」というネイチャーゲームをしましたが、このフィールドをどこにするか直前まで悩んでいました。このゲームは、特にお気に入りのアクティビティで、いろいろこだわりがあります。例えば、3日間の講習会のどの場面でも使わなかったフィールドを用意するようにしています。その時は、前日までに結論が出ずに、当日の朝皆が起き出す前に歩き回っていました。2カ所気に入ったところがあって、決めかねていました。参加者の集合の時間が迫ってきます。両方の場所で可能なように準備を進めながら、ふと見ると片方の場所に手を合わせ祈るような姿をしたカマキリを見つけました。その瞬間ひらめきました、「この講座はカマキリだ」と、もちろんカマキリのいるフィールドでの実施を決めたのです。

 ちなみに、その朝のサイレントウォークは、とても満足のいく内容で終了しました。
カマキリの学名は「マンティス」といいます。神々に祈りを捧げる「巫女(みこ)」という意味だそうです。日本でも「おがみ虫」と呼ぶことがあるそうです。神のご加護が有ったようです。

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人と自然の出会い旅05
アラレちゃんでなくても、フンは面白い?

 
 「間違い有りません、熊のフンです。」そういっている彼女のうれしそうな顔といったら有りませんでした。その時までも、その時から後でもフンを見てあんなにもうれしそうな顔をした人を見たことがありません。フンという特殊事情を別にしても、あんなにうれしそうな顔というのはそんなに見られるものではありません。
 彼女は、北海道のクマ牧場で学芸員をしている人、そのフンがあったのはアナンダ村です。アナンダ村というのは、ネイチャーゲームの創始者であるJ.コーネル氏の住んでいる村です。ネイチャーゲーム協会の主催するツアーで仲間と共に訪れていた時のできごとです。
 アナンダ村は大自然の中に有る村で、特に私たちが宿泊していたところは、鹿や野生の七面鳥などがうろうろしているようなところです。そんなところで、アナンダの人々の生活にふれたり、コーネル氏が直接指導されるネイチャーゲームを楽しんだりというネイチャーゲーム協会主催のツアーの中でのことだったのです。この村で、ネイチャーゲームの体験中に、メンバーの一人が大きなフンを見つけたのです。あまりの大きさに、この落とし主は熊ではなかろうかということになったのですが、日本とは違いますから、熊ということになればかなり怖いかな、ここは熊がいるのだろうかなどと、ケンケンガクガクになったわけです。でも誰も熊のフンなんて見たこと無いわけですし・・・。というわけで、学芸員の彼女の存在が思い出されたわけです。さっそく誰かが彼女を呼んできました。そして、冒頭のシーンになったわけです。
 しげしげとフンを見ていてた彼女は、バックからナイロン袋を取り出すと、やおら、その袋の中にフンを詰めだしました。日本へ持ち帰って、何を食べているのか調べるというわけです。(検疫上問題があるかな?まあ、もう時効でしょう)。皆、そのキラキラした瞳と、喜びの表情を見ながら、アングリでした。そうか、人によっては、フンを前にしてこんなにも喜べるもんだと初めて知ったわけです。
 2度目にフンのことをうれしそうに語っている人を目の前にしたのは、広島県の吉田(数年前にNHKの大河ドラマに取り上げられた毛利元就の居城の有った町です)というところで、ネイチャーゲーム指導員の研修会を持ったときのことです。研修会では、講師で来ていただく人に、ネイチャーゲーム以外でも持ち味を出していただくようにお願いしています。その時の講師として来てもらったのは、大島順子さん(上級指導員で、現在オーストラリアで環境教育の研究中)でした。彼女の特別メニューが、「フンコロジー」だったわけです。
 彼女が、おもむろに出してきた数々の標本は、いずれもフンから取り出したものでした。フィールドでフンに出会うと採集し、持ち帰って水に入れてふやかし、茶こしを使って不純物(?)を取り除いて行くと、フンの落とし主である動物が食べて消化できなかった骨などが、残るわけです。きっと、そんな中でもとりわけうまくいったものを、大島さんは標本にしていたのだとは思いますが、それは見事なものでした。小さいながらも、一つの生き物の骨がひとそろいきっちりと、並んでいるのです。それは、もうなかなかのものでした。
 アナンダの熊のフンの時は、まだ処理前で今一つ素人には、わかりにくいものでしたが、きれいに整理されている標本を前にして、参加者の目も光っていました。その後、吉田の山の中を歩きながら、誰かがフンを見つけると異様に盛り上がってしまって、フン談義に花が咲き、持ち帰る人も出現して大変でした。
 あのアナンダの熊のフンからはいったいどんなものが出てきたのだろう、専門家の目によって、かの地の熊の餌の状況が明らかになったのだろうなあと、今更ながら思うのです。
次回は、熊の影をもっと身近に感じた時の事をお話しすることにしましょう。

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人と自然の出会い旅06
熊はこわいよなぁー!
 小諸青年の家で行われた、ネイチャーゲーム指導員の養成講座でのことです。会場となる青年の家に入ると、玄関に「熊注意」の掲示が有るではないですか。最近、施設周辺に熊が出没しているので、夜間や早朝野外での活動は自粛するようにとの警告がです。えーーーー!それは困る。何しろ夜も早朝も野外で活動がしたいわけですから 、出るなといわれてもなあぁ。
 まあ、熊といっても本州のことだから、月の輪熊なわけで、人間食べるわけじゃないから、こちらの方がそれなりに注意しておればと、思ってみたり。熊に警告を与えれば、熊の方から遠慮してくれるのでしょうが、何しろネイチャーゲームは静かな活動が多い、向こうを驚かす心配はあまりないけれど、気がついたらお互い目の前にいたという事態も考えられるわけで、はてどおしたものか・・・・?

それにしても、本当にいるのかなあ・・・?と、フィールドに出てみると、青年の家から少し離れた場所で、一本の木に、スタッフの一人が熊の痕跡があると言い出しました。見ると、その木にはたくさんのひっかき傷があります。何でも熊は木からおりるときは、抱きついた状態でズルズルといった状態ですべりおりるのだそうで、縦方向に爪痕がつくのだそうです。その木には、たくさんの爪痕がはっきりとついているではないですか、それだけではありません。何と、その木には熊棚の跡が有ったのです。熊棚というのは木の上に枝を集めてきて、熊の休憩所のようなものを作っているところです。いわれてみると樹上には、不自然に枝が固まったところが有るではないですか。施設から、こんなにも近いところに、こんなにも明らかな熊の痕跡を見せられて、ちょっとびびってしまいました。

さらに、施設から20分くらい離れたフィールドを下見に行くと、そこは本当に素敵な場所でして、ワクワクしてしまいます。施設から遠いので、移動時間がもったいないのですが、
これは何がなんでもここまで来ようと、下見を進めて行くと、森の中で大きな檻に出くわしました。「えっ!これ何?」。何とそれは、熊の捕獲用の檻でした。もう決定的です。夜、外に出るのはあきらめなければいけないかなと思わされました。

結局、この講習会では二日目の夜は雨が降って、室内での実施ということになりました。そして、夜の講習では思わぬ収穫がありました。「暗闇を照らせ」という気配を消したり、足音を立てずに歩く訓練をするゲームがあるのですが、これは足下の音がするものを避けながら歩くわけですから、基本的に野外で行うことになります。この時は、やむなく室内で行ったのですが、有る程度音が出るように、室内にシートを敷いてそのシートの上に落ち葉をまいたのです。その部屋に、参加者と入って行くと、不思議な感じがしました。室内なのに森の中にいるような気がするのです。その後、引き続き行った「魔法の黒い鍋」も含めて、通常野外で行うのに極めて近い心理的状態で実施できたのです。

原因は、匂いです。室内に敷き詰められた落ち葉から発するにおいが、私自身も含めて参加者の意識に深い影響を与えていたのです。普段はあまり意識しない嗅覚ですが、意識しないだけに深層心理に与える影響は大きいようです。そのことに、あらためて気づかされた体験でした。

ちなみに、くだんの熊捕り用の檻ですが、その後講座の中で「目かくしイモムシ」という活動(参加者全員が目かくししているのですが)の最後に、目かくしをとると目の前には檻があるというわけです。人工物というのは、異例ですがこの自然と熊との関係を感じてもらいたく、セットしました。なかなか、面白い講習会でした。

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出会い旅3